空色の風琴(ソライロノオルガン)
ブランド THE LOTUS 原画 植田　亮／水瀬　凛
ジャンル ノベル風ＡＶＧ シナリオ 春菜ななこ
純愛 プレイ時間 合計：１２時間０５分
発売日 ２００４／０３／２６（金） 初回：同上
価格 ￥８，８００ ２回目以降：無し
ＯＳ Windows98/2000/ME/XP 難易度 １（５段階：５が最高）
メディア ＣＤ×２（容量９００ＭＢ） 評価
（10点満点）		 ７点（良作）
音声 無し
■執筆日：初版２００４／０７／２６
■前書き

　このゲーム、久々に登場の「春菜《きゃんきゃんバニー》ななこ」さんのシナリオのゲーム、という事で購入はしたものの、あまりに地味なパッケージと、いま一つの原画と、そそらない導入部の粗筋、に暫く眠らせていたのですが、いざブレイしてみるとこれがとても面白かったのでした。本当に見た目で損をしている惜しい作品ですね。
■ゲームに関する基礎知識

　ブランド「ＴＨＥ　ＬＯＴＵＳ」（ザ・ロータス）のデビュー作です。当初は２００２年秋頃の発売予定でしたが、制作途中でシナリオライター氏が倒れて発売が一年延期される、等のトラブルが有り、難産の末に２００４年春にようやく発売されました。

　なお、ザ・ロータスは、Ｆ＆Ｃの有名プロデューサー「金杉はじめ」氏がゲーム作りの新しい方法を実行するため立ち上げた新ブランドです（制作専門のため営業はＦ＆Ｃが担当）。プロデューサー・ディレクターは制作環境作りに徹して中身には口を出さず、シナリオライターは好きにシナリオを書き、原画家はシナリオを読んで気に入ったシーンの原画を描く、といったコラボレーション重視の制作スタイル、だそうです。

　シナリオライターの「春菜ななこ」氏は、かつてカクテルソフト（Ｆ＆Ｃのブランド）で「きゃんきゃんバニー４」「同５」のシナリオを担当し、一種の伝説を作ったお方で、１９９０年代前半を知るゲーマーには懐かしい名前ですね。
■設定（粗筋／開始状況）
　
　主人公「奥田　友哉」（変更可能）は叔父の七七日で従妹「如月　颯沙（さらさ）」と再会します。かつて友哉は病弱な颯沙のために毎週家庭教師を引き受けていましたが、次第に美しくなる颯沙を前にして、もう兄の様な態度を取れなくなり、最近は距離を置いていました。その晩、友哉と颯沙が二人だけで過ごしていると、突如鏡の中から光が発せられ、次に気がついたとき、友哉は一人で異世界の町「アルシオ」へと来てしまっていました・・・、

　という感じで始まる、ノベル風ＡＶＧです。
■ゲーム展開

　ノベル形式（全２３章）で、各章でいくつか選択肢が表示されますが、どれを選んでも台詞が多少変わる程度で、ストーリーは一本道、エンドも一個、と、１９９０年代前半のＡＶＧを思わせる、最近では珍しい構成です。終盤は選択肢すら無くなりますので、本当に「ノベル」と言っても良いでしょうね。
■操作系

　概ね問題は有りませんが、セーブ関係の画面の遷移の仕方がちょっとわかり難い、とか、ＣＧモードが操作し辛い、とか、細かい部分が気になりました。Ｆ＆Ｃと繋がりが有るにしてはこなれていない、という印象です。
■原画・ＣＧ

　原画は「植田　亮」「水瀬　凛」のお二人。ヒロイン颯沙を初めとする主要キャラを植田氏、サブキャラは水瀬氏、という分担です。でも私は水瀬氏のキャラデザのほうが好きですね。

　ちなみにこのゲーム、珍しいことに主人公の知哉の顔がはっきりと描かれています。眼鏡をかけた優男ですが、なかなかに美形なので、「これが主人公ならば許せる」というところですね。
■音楽
　
　Ｆ＆Ｃ作品でもお馴染みの「ＤＯＯＲＳ」が担当です。メインテーマ等はイマイチでしたが、クライマックスで演奏されるパイプオルガン曲「ｃｏｎｔｒａｐｕｎｃｔｕｓ」はバッハ風で凄く気に入りました。
■音声

　無し。
■ストーリー

　一言で言えば「純愛」です。恋愛に淡白で、密かに好きな颯沙には年齢差を気にして告白できない知哉と、知哉を愛しながらもそれを口に出せず、心とは裏腹に冷たい態度を取ってしまう颯沙、この二人が異世界に転移し、様々な体験を経てついに心を通じ合わせるまでの恋愛物語です。

　異世界が舞台で一応ファンタジーなのですが、それはあまり強調されていません。確かに魔法や精霊が当たり前の様に存在する世界観ですが、友哉の周りの人々はごく普通の人々で、舞台となるアルシオも特別なところの無い田舎町です。そして町が一年に一度の大イベント「星祭り」に向けて盛り上がってゆく中で、友哉と町の人々の触れ合いが描かれます。

　劇的なイベントは殆ど無く、友哉と女性キャラとのやり取りを主としたゆったりした展開なのですが、コミカルな要素も含みつつ切れ目無く進んでゆくので、十時間以上の長丁場のシナリオにも関わらず興味が途切れる事は有りませんでした。このあたり、シナリオライター春菜ななこさんの本領発揮、というところでしょう。

　主要な女性キャラは颯沙も含めて合計六人。最終的には友哉は颯沙を選ぶ訳ですが、他の女性キャラは「捨てられる」のでは無く、どのキャラも友哉から前向きな何かを得た上で離れていく、という展開なのが気に入りました。

　クライマックスは嬉しいくらいに王道です。タイトルにもなっている風琴をＢＧＭとして友哉と颯沙が互いの愛を確かめ合う、という展開は本当に盛り上がりました。

　見た目は凄く地味なので心配していたのですが、終えてみると本当に良いお話でしたね。
■まとめ

　●評価（１０点満点評価）＝「７点」（良作）

　「地味に面白い」

　プレイを開始する前ははっきり言って興味が薄かったのですが、いざ取り掛かってみるとあっという間に物語に引き込まれてしまいました。派手な展開は無かったのですが、シリアスとコミカルを取り混ぜた流れるような物語は本当に面白かったです。

　しかし、この作品、良作ではありますが、同時に「多分世間からは大した評価は受けないだろう」という確かな予感があります。全体としていい出来なのですが、『ここがずば抜けて凄い』という所が有りませんから「後世に語り継がれる名作」にはなりそうも有りません。また、それ以前の問題として「絵が地味」、かつ「学園恋愛物では無いのでとっつきにくい」という事実があり、ゲーマーに手に取ってもらうのすら苦労しそうです。

　とは言え、シナリオを初めとして作りこみはしっかりした物であり、体験する価値は十二分に有ると思います。純愛物語を体験したい方にお勧めしたい作品ですね。
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