月は東に日は西に　〜Operation Sanctuary〜
ＡＵＧＵＳＴ（オーガスト）
ジャンル	アドベンチャー	監督	るね
	学園恋愛物	原画	べっかんこう
	感動系	シナリオ	榊原拓／内田ヒロユキ／安西秀明
発売日	２００３／０９／２６（金）	プレイ時間	一回目＝１０時間３０分
価格	￥８，８００		総合計＝４１時間３０分
ＯＳ	Windows98/2000/ME/XP		（２回目以降＝約７時間）
メディア	ＣＤ×３	難易度	１（５段階：５が最高）
容量	１．５ＧＢ	評価 （10点満点）	７点（良作クラス）
音声	有り

■執筆日：初版２００４／１０／０３　改訂２００４／１０／２１

■簡単紹介

オーガスト初の学園恋愛アドベンチャー。前半は明るく楽しいが、後半雰囲気が一転。泣かせるための設定が突拍子無さ過ぎてラストがしまらず。

■ゲーム豆知識

●「オーガスト」ブランドの三作目。 ●コンシューマー機版有り（ドリームキャスト版・ＰＳ２版。発売は「アルケミスト」）。 ●２００４年にＴＶアニメ化（６月〜９月放映）。

■粗筋

「久住　直樹」（変更不可）は五年前の事故で両親を亡くし、自分も過去の全記憶を失いましたが、彼を引き取った叔父一家や幼なじみの「藤枝　保奈美」達に囲まれ、今ではすっかり立ち直り、高校生活を満喫中です。高校二年に進級した春、直樹がいつもの様に学校の屋上で昼寝していると、空から女の子が飛び降りてきて直樹を直撃します。しかもその少女「天ヶ崎　美琴」は翌日、何食わぬ顔で帰国子女と称して直樹のクラスに転入してくるのでした・・・

■登場キャラ

◆天ヶ崎　美琴 　メインヒロイン。ポニーテールの転校生。適度に可愛くて活発で・・・、と一番無難なキャラ設定で個性弱〜い。 ◆藤枝　保奈美 　幼なじみで、「なお君」と呼んでくれ、毎朝遅刻しないように寝室まで起こしに来てくれる、という超定番設定キャラ。美人でスタイル抜群、性格が良く、成績優秀で料理上手、というまさに無敵のヒロイン。 ◆渋垣　茉理 　直樹の従妹。一歳下。ツインテールの生意気娘。学内のカフェテリアでバイト中。ウェイトレス服は学校で着るものと思えません。 ◆橘　ちひろ 　茉理のクラスメート。引っ込み思案で恥ずかしがり。園芸部唯一の部員。 ◆野乃原　結 　直樹の担任＆部活動（天文部）の顧問。身長が１４０センチ無くていつも子供に間違われると言う、年上なのにロリ系統のキャラ。 ◆仁科　恭子 　保健の先生＆園芸部顧問。当然美人でナイスバディで大人の魅力で気さくな性格で主人公と仲が良い、という、これまた定番な設定のキャラ。

■付属品等

マニュアル（『マニュアル　With　はにはにビジュアルブックレット』）はマニュアルと設定資料集がセットとなったもので、１１０ページも有る豪華な物です。中身は操作方法・キャラ紹介・スタッフコメント・初期設定資料等で、とても読み応えが有ります。ここ数年マニュアルはシンプル化しているので、この豪華さには度肝を抜かれました。

■ゲームシステム

アドベンチャーゲーム。画面の下側にメッセージウインドウが表示され、長文のテキストの合間に時々二〜三択の選択肢を選ぶタイプ。キーディスクが不要（＝起動時にゲームＣＤを必要としない）のため、ストレス無く遊べて助かりました。

■インターフェース

セーブポイントは８０個。セープ・ロード（含むクイックセーブ）の仕様や使いやすさ、過去メッセージの表示の簡単さ、ＣＧモードの見易さ、きめ細かくカスタマイズ出来る設定、等、随所に配慮が行き届いており、ここまで優れたインターフェースはそうそうは有りません。文句無しの百点満点。

■展開

直樹が高校二年の新学期を迎える直前の４月４日からスタートし、当初は一日単位で進みますが、やがて数日〜数週間飛ばしとなり、色々なイベント（体育祭、ゴールデンウィーク、文化祭、デート、等々）が有る日だけピックアップする、という形に移ります。基本的に物語の進行を眺めているだけで、選択肢（二〜三択）は思い出した様にしか現れませんし、これも攻略ヒロインに応じて素直に選んでいけば全く問題は有りません。 　序盤は複数のヒロインが一度に登場しますが、一人に絞って話を進めていくと、初夏辺りから各ヒロインの個別ストーリーに移行し、選択肢が出なくなって完全に電脳小説化しますので、早い時点で攻略ルートに無事乗ったかどうか解ります。以上の事から解るように難易度は低く、迷う要素は皆無です。 　なお、各ストーリーとも途中までは明るい学園恋愛ドラマですが、中盤以降目を丸くするような展開に突入してしまいます。詳細は後述しますが（「シナリオ」参照）、個人的な評価はもう一つでした。

■原画・ＣＧ

原画はオーガスト作品皆勤賞の「べっかんこう」氏。氏の描く女性キャラは、年齢を問わずころころした顔立ちで、あまり心の琴線には触れませんでしたが、それなりには気に入りました。ＣＧの塗りの質は高く、特に背景ＣＧはその描き込みの密度には圧倒されました。あと、ＯＰ曲ではムービーが動きまくりで毎回感心して眺めていました。

■音楽

ＯＰ曲「divergent flow」は実にノリが良いのでお気に入りで、ゲームを起動する際には（飛ばすことも可能なのに）毎回律儀に聞いていました。これ以外はとくにコレ！という曲は有りませんでしたが、ほどほどのレベルだと思います。

■音声

直樹以外は女性はもちろん男性キャラも音声有り。声優のレベルは高いし、女性陣の（自主規制）シーンの熱演ぶりときたら、それはもう・・・

■シナリオ

シナリオは榊原拓・内田ヒロユキ・安西秀明の三氏。分担は不明。 　ワンプレイあたりの所要時間は８〜１０時間。既読スキップを活用しても、ヒロイン毎の個別ルートに入ってからがまた長いので、ボリュームはたっぷりです。 　シナリオ前半は、宣伝コピーの「東奔西走スクールライフＡＤＶ」の通り、学園を舞台に明るく楽しい恋愛模様が描かれます。活発な主人公・直樹や、明るい転校生、面倒見の良い幼なじみ、ナイスバディの養護教諭、等々のキャラが集まり、定期テスト・体育祭・水泳大会・文化祭、といった学園物の定番イベントをにぎやかに展開してくれます。台詞などで特に優れた物は有りませんが、直樹とヒロインの仲が徐々に深まっていく様は、学園恋愛物の王道を突っ走っていてこそばゆくなるくらいで、実に良い感じで進みます。 　そして長い時間を経てついに直樹とヒロインとが互いの気持ちを確かめ合うと、いよいよお待ちかねのシーンに突入するのですが、これがボリュームたっぷり！！で、「さすがここまでじらしただけの事は有る」と太鼓判が押せる出来です。プレイ中にあまり意識はしませんでしたが、パッケージには「〇シーンは着衣が基本」とか謳っており、こだわりが有るようで、とにかく充実した内容です（高校生にしてはマニアックなシチュエーションも多いのですが、まぁ、その辺りはご愛嬌）。 　しかし、シナリオ後半に入ると、途端に雲行きが怪しくなります。と言うのは、全く唐突に「実は・・・」という隠し設定が公開され、これによりストーリーは学園恋愛物から全く別のシリアス展開へと強制的に移行してしまうからです。ところがこの設定と言うのがかなり穴が有り、「どう考えても変」という部分が多々有るため、物語へのめりこみ度は一気に低下してしまいました。しかもクライマックスは（予想した通り）悲しそうな台詞とシリアスなＢＧＭを組み合わせた「泣かせ」シーン。ここ数年このパターンのゲームが多かったので「またか」とうんざりさせられましたし、しかも涙しなければならないはずのシーンでも話の陳腐さのあまり退屈してしまう、という始末で、結局どのヒロインのエンディングも感動など一欠けらも無いまま迎えることになってしまいました。 　下手に有名作品の影響を受けて、そっくりの展開で「泣かせ」に走ったりせずに、前半の学園恋愛物で最後まで通せば良かったのに・・・、惜しいシナリオでした。

■まとめ

●評価（１０点満点評価）＝「７点」（良作） 　　「学園恋愛物オンリーなら素晴らしかったのに」 　実にもったいない作品と言えるでしょう。とにかく随所に大作感を漂わせており、マニュアル（資料集込み）は１００ページ超の豪華版で、ＯＰのムービーは動きまくり、インターフェースは考え抜かれ、ＣＧは綺麗で、声優は豪華で、会話は面白く、どのルートでも八時間くらいはかかるイベント量で、サービス部分は濃厚な物が食傷するくらい山盛りで、と全てにボリュームたっぷりの贅沢な作りです。 　ところが、下手に世間で大流行の「途中からシリアス展開→クライマックスは感動で涙」という流れを真似しようとしてしまったため、前半の素晴らしい学園恋愛物の雰囲気を自分で壊し、なおかつ泣かせには失敗する、というしまらない話にしてしまっています。まさに自滅。実に惜しいことです。 　とは言え、シナリオ展開のまずさを差し引いても、上で述べたように、システム・ＣＧ・会話その他のレベルの高さはかなりの物で、そこらの二流ゲームよりはよほど楽しめます。あらかじめ話の流れについて覚悟を決めていればそれなりに楽しめる作品、と言えると思います。 　しかし、タイトルの意味は結局何だったのでしょうか？（結局最後まで解らないままだったし・・・）。「東奔西走〜」だから語呂合わせで「月は東〜」、とかいう安直なタイトルだったらどうしよう〜。

■補足：ネタばれ感想（反転して読んで下さい）

後半のＳＦ部分の設定が荒唐無稽の一言。未来からやって来た病気の対策を開発すべき人たちが、その一方で学校の教師の仕事に時間を割いたり、堂々と高校の理事長を勤めているなんて・・・、人類の危機なのにそんな事をしていていいんでしょうか？　未来人が学校経営に関われるのか？　また戸籍はどうなっているのか？　疑問が一杯です。 　美琴シナリオですが、メインヒロインなのに話が一番短くて中身が薄いというのも・・・、保奈美シナリオをクリアしないと祐介の設定の意味が全くわからないというのもどうかと思います。 　結先生シナリオ。人間かと思わせて実はロボット、かと思いきや実は人間、と話を捻りすぎです。人間ならば（自主規制）してはまずいでしょうに。 　ＳＦ設定を上手く使っていたと言うのは恭子先生シナリオくらいだと思います。残りのヒロインは前半の学園生活と後半の展開が乖離しすぎていて、どれも今ひとつに感じました。 　ホント、下手に（底の浅い）ＳＦに走らずに学園恋愛物に徹したほうが良かったですね。

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